東京地方裁判所 平成5年(ヲ)2044号 決定 1993年3月01日
異議申立人 東工機販有限会社
上記代表者代表取締役 中村義人
上記代理人弁護士 田中義信
主文
1 本件執行異議の申立てを却下する。
2 異議申立費用は申立人の負担とする。
理由
1 申立て
異議申立人は、「東京地方裁判所が平成四年一二月二一日なした平成四年(ケ)第四四〇四号不動産競売事件についての開始決定はこれを取り消す。本件増価競売の申立は許可する。」旨の決定を求めた。
2 事実関係
記録によれば、以下の事実が認められる。
(1) 競売目的不動産である別紙第1物件目録≪省略≫1及び2記載の建物(以下「本件建物1及び2」という。)は、もとは一つの区分所有建物すなわち別紙第2物件目録≪省略≫記載の建物(以下「旧建物」という。)であった。旧建物の第三取得者である異議申立人は、旧建物を滌除対象不動産とし、提供金額を四六六〇万円として、前記滌除申出書面を発送し、同書面は、平成四年一一月一七日に、基本事件の申立債権者に到達した。
しかし、異議申立人は、滌除申出書面の発送後で到達の日と同日である平成四年一一月一七日付けで、自ら、旧建物を再区分して本件建物1(旧建物から五階部分を除いた部分に該当する)と本件建物2(旧建物の五階部分に該当する)とし、それぞれ区分の登記をし、旧建物は、本件建物1及び2の二つの区分所有建物となった。
(2) 基本事件の申立債権者は、本件建物1及び2について、増価金額を合計五一二六万円と定めて、増価競売の申立てをした。
3 争点(原決定の判断及び執行異議の理由)
争点は、上記滌除申出の有効性である。
(1) 原決定の判断
原決定は、本件では、滌除申出が一つの建物についてされたところ、滌除申出書面の発送後に建物が区分されて二つの建物となったから、滌除申出は無効であると判断して、増価競売の申立てを却下し、通常競売の開始決定をした。
(2) 異議申立ての理由
異議申立人は、異議の理由として、本件では滌除申出書面発送後に建物が区分されて二つの区分所有建物になったが、本件の各区分所有建物は当然一括して売却されるべきものであるから、個々の建物についての滌除金額が不明でも何ら問題とならず、したがって、滌除申出は有効であり、裁判所は増価競売の開始決定をすべきであったのに通常競売を開始したのは違法であると主張する。
4 当裁判所の判断
滌除申出が一つの建物についてされたにもかかわらず、滌除申出書面の発送後に建物が区分されて二つの区分所有建物となった場合は、右区分が滌除申出の到達より先であると後であるとを問わず、滌除申出は無効となるものというべきである。その理由は、以下のとおりである。
このような場合には、滌除申出の対象不動産を旧建物から新建物に読み替えたとしても、提供金額は旧建物について定められているのみであり、区分された個々の建物については提供金額が定められていない。そのため、抵当権者も裁判所も、区分された個々の建物についての滌除権者の提供金額を知ることができず、抵当権者は各区分所有建物について滌除権者の提供金額より十分の一以上高い価格を定めることができないし、裁判所も債権者の定めた価格が適法かどうかを判断できず、各区分所有建物についての最低売却価額を定めることもできない。このような結果の生ずる金額不明の申出は、効力を認めることはできない。そして、第三取得者は、自ら滌除申出をしながら、敢えて申出にかかる提供金額を不明にする行為をしたものであって、その滌除申出が無効と解されても、自ら招いた結果であるというほかはない。
異議申立人は、旧建物は法律的に二つの区分所有建物に分割されたが物理的には従前の形態に何らの変更をきたすものではなく、本件建物1及び2は一括売却されるべきものであるから、個々の建物についての滌除申出額は不要であると主張する。しかしながら、本件建物1、2が将来一括売却されるかどうかは現時点では不明というほかはないし、そもそも、最低売却価額は、競売の対象である複数の物件が将来一括売却される見込みがある場合であっても、超過売却にあたるかどうかの判断をするためや、配当時に売却代金を各不動産に割り付けるためなどの基準として、各不動産ごとに定める必要があるものである。したがって、異議申立人の主張は、理由がないことが明らかである。
5 結論
以上のとおりであって、本件執行異議の申立ては理由がない。なお、異議申立人は、申立ての趣旨において本件増価競売の申立ての許可も求めているが、増価競売の却下決定に対する不服申立ては執行抗告によるべきものであり、かつ、本件申立ては既に執行抗告期間を徒過した後にされたものである。
よって、本件執行異議の申立てを却下
(裁判官 杉原麗)